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1 st BIOMET 3i European Symposium A Global Eventレポート

1 st BIOMET 3i European Symposium A Global Event
ヨーロッパ最新インプラント治療の潮流にふれて
—There is an entire world out there—

矢原憲一
矢原歯科医院

<はじめに>
記念すべき第1回目となるBIOMET 3i European Symposium A Global Eventが2012年1月13,14日,スペインの首都マドリッドにて開催された。

野々山先生スケッチ マドリッドより車で1時間のところのトレド(世界遺産)風景

このシンポジウムは第11回スペインシンポジウム,第2回北欧,中央ヨーロッパシンポジウム、および第1回アジア・パシフィックシンポジウムの共同開催ということで,46名のワールドクラスの演者およびモデレーター、20か国以上から2500名を超える参加者が集った。
著者自身,初めて第96回米国歯周病学会(AAP)に参加した際,世界の第一線に君臨する先生方のスライドやプレゼンテーションから,大胆な治療計画と文献に裏付けらた緻密な理論や治療手技に圧倒され、それまで日本国内で粛々と講演会に参加し満足していた私にとって、海外に目を向ける大きなきっかけとなった。
そして今回,著者も所属する5-D JAPAN ファウンダーである船登彰芳氏(石川県開業)と石川知弘氏(静岡県開業)が招聘されたこともあり,ファウンダーのメンバー全員(北島一氏:静岡県開業,南昌宏氏・福西一浩氏:ともに大阪府開業)とともにスペイン行きを決めたのである。
また日本から50名以上のBIOMET 3i ユーザーの先生方がツアー参加されていた。

この季節,池の水も凍るほどの寒さであったが,幸い滞在中は快晴が続き,到着翌日はマドリッド中心部のスペイン広場や美術館、世界遺産のトレドへの観光も堪能でき,ヨーロッパの歴史ある建物や独創的な絵画や彫刻などの美術品を目にすることができた。

<シンポジウム一日目>
Prof .Dr.Jaime A.Gil (ヨーロッパ審美歯科学会元会長・スペイン)のスピーチからシンポジウムはスタートした.
先陣を華々しく飾ったのはDr.Ueli Grunder(スイス)の「審美領域におけるインプラント治療-20年以上経過症例からの報告-」と題した講演であった.
今回提示された多くの長期経過症例が,審美領域におけるインプラント唇側の硬組織・軟組織のボリュームや厚みが,術後の長期安定に影響するという多くの論文の礎になっていることが理解できた.10年以上前から変わらず,これから先も何ら変わることはないであろうGrunder氏のコンセプトは特に印象深かった.
また多くの成功症例の陰に,氏が経験した失敗症例や歯肉退縮症例を提示していただけたことは,経験の浅い著者にとってかけがえのない情報の共有となった。

またBiomet 3i の新製品で,日本でも今春発売予定であるエンコードシステム(ヒーリングアバットメントを口腔内でスキャンすることで,印象採得することなくアバットメントを作製できるシステム),オッセオタイト2(スレッドデザイン変更よる初期固定性の向上と表面積増加の進化を遂げた新インプラント)がいち早く海外の臨床で機能している報告もあり,日本での発売に期待をもたらす講演が多数あった.

<シンポジウム2日目>
Dr.Francesco Amato(イタリア)は審美領域において重度のアタッチメントロスを生じた症例に対し,論文を元に顔面~口唇~インサイザルエッジ~歯肉ラインなどから治療ゴールを設定するとした.そこから天然歯保存のため歯周治療や矯正治療,インプラント治療と様々な治療オプションを駆使したインターディシプリナリー治療の結果は圧巻であった.

<船登・石川両氏講演>
まず昨年の東日本大震災について触れ,スペインをはじめヨーロッパ各国から多大な支援をいただいたことへの感謝と,日本国民は辛抱強く復興に向け歩み続けていること,加えて「Pray for Japan」とのメッセージを送った.
船登氏の講演では約10年前に行った前歯部抜歯即時埋入のケースを提示し,現在のCT画像から術後の唇側骨の吸収や軟組織の退縮を生じた原因について検証した.
それに基づき現在,「4-Dコンセプト」として確立されている3次元的な埋入ポジションに加えて,抜歯から補綴物装着までの各ステップを行う「Timing」の重要性について詳細に解説した.
石川氏の講演では,歯槽堤保存の一手法として,支台歯利用が困難で保存可能な天然歯根をあえて軟組織下に埋入する「ルートサブマージェンステクニック」を,歯槽堤の硬組織増大の方法としてチタンメッシュとコラーゲン膜を用いた水平的・垂直的GBR法を紹介し,前歯部・臼歯部に重度骨欠損を生じている多数歯欠損症例に対し、審美的・機能的に予知性の高い治療結果を得られた症例を提示された.

今回のシンポジウムのトピックとして,
①抜歯後即時埋入術式と術後評価
②審美領域における唇側骨保存と増生の科学
③全顎欠損に対するフルアーチインプラント治療
④Peri-Implant Diseasesに対する予防と治療法
⑤デジタルデンティストリーの新しい治療の流れ
などであった.
特に前歯部抜歯即時埋入に関する講演は非常に多く,10年以上の長期経過症例から臨床データも集積され,そのプロトコールは確立されてきていると感じた.しかし成功症例の陰に多数の審美的経年変化の失敗症例が散見されていることから適応症例の選定はもちろん,生物学的な許容量(限界),術者の経験や技術的な限界などを過信しないこと.真摯に患者利益のために行われるべき治療であると感じた。

<おわりに>
2回目の海外シンポジウムに参加して感じた海外から見た日本の良さとして,歯科書籍・雑誌,インターネットを利用した論文の閲覧などから日本国内で収集できる情報にタイムラグはほとんど感じ得なかった。
これは各研修会,各講習会の講師達が率先して海外研修に出向き、そこで得た最新の技術、知識,情報を惜しまずに我々受講生や後輩達に伝達していただいている賜物であると感じた。
しかし,現地に行かなければ絶対に感じ得ない演者達の情熱や会場の興奮,海外のDr達との交流は帰国してからも日々の診療で大きな刺激になり続けている。
また二人の日本人の講演は非常に堂々としており,英語での講演はもちろん,治療結果のクオリティの高さに聴衆は魅了されていた。著者をはじめ,今回日本から参加された先生方も,同じ日本人として誇らしく会場をあとにすることができたのではないだろうか。