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第十回PRD Symposium報告記

5-D Japan ファウンダー : 南 昌宏

今回(第十回 PRD Symposium)は私、南が参加しました。
私事ですが…..10日(木)の昼につく予定でしたが、ANA機の到着送れとワシントンDCのDulles空港で検査時に大勢の南アフリカのサッカー応援団の人たち(?)がゆっくりとされておられたためコネクティングのUA機に乗れませんでした。しかもすべてのボストン行きのフライトが満席で最終便でも乗れない(おそらくNBA finalがあるためだろう)と言われてしまいました。唯一の方法は夕方4時半発のRegan空港のUS airwaysに乗ることであると言われました。そういうわけで荷物をピックアップしようと1時間ほど探したのですが見つからず、急いでロストバゲッジの処理をしてもらい、不安ながらも手ぶらのままDulles空港からRegan空港までタクシーで1時間ほどかけて移動し同機に乗りました。これでやっと着けると思っていたら、ここでまた1時間程出発が送れ、ボストンについたのが夜8時前で、バゲッジクレームでロストバゲッジのチェックをしていたところ少し待ちましたがやっと見つけることができました。予定より7時間半の遅れでの到着です。そういうことで木曜の昼から見ようと思っていたのですが見ることができずに金曜からの学会参加となりました。

11日金曜日午前中の講演からDaniel BuserのInfluence of Anatomic and Surgical Aspects on Esthetic Implant OutocomesとUeli Grunder のBiologic Guidelines for and Limitations of Anterior Implant restorations そしてDavid GerberのSuccess by Design: Managing Risk Factors and Minimally Invasive Surgical Protocols in Anterior Implant Therapyを聞きました。
まずBuserの講演では審美インプラントに置ける解剖学的側面からバイオタイプや骨欠損形態などITIコンセンサスレポートVol.1の項目にしたがって解説しました。さらに抜歯前の唇側骨の評価については、CBCTでの抜歯前の唇側骨頂2~3mm付近は90%の症例で1mm以下であることが彼らの研究で明らかになったとのことでした。外科的側面からはインプラントの形状やアバットメントコネクションのタイプ、切開線、骨造成、遮蔽膜、埋入位置などについてレビューしていました。フラップレス埋入については彼らの症例で5%と頻度が少ないことについても触れていました。結論としては審美インプラントには3次元的に埋入位置をコントロールする高いスキルが求められ、リスクアセスメントが必要であること。それでも垂直的骨欠損への対応にはしばしばコンプロマイズが生じてしまうという現実があるということ。

もし抜歯後のインプラントを計画する時は48週軟組織治癒を待ってから行なうのが無難で抜歯即時インプラント埋入には制限があるとまとめていました。
Ueli GrunderはBuserのレビュー内容をより臨床に即して彼なりにまとめ直したものでした。2部構成に分けられていて、パート1ではまず Biological background とそれにともなうlimitation(限界)について述べていました。例えば唇側の退縮に対しては軟組織のみの退縮では長期にわたる組織の安定は望めず、十分な硬組織が必要であることや、またインプラント間の距離は歯間乳頭の保持のためには3mmでは不十分であることからBuccal bone volumeの重要性を説いていました。

パート2ではAnalysis of the case(症例の分析)からClinical procedure(臨床術式)の立案について解説がありました。分析項目としては1)Smile line  2)Shape of the ridge  3)Tooth form  4)Soft tissue (thickness. keratinized mucosa, form, tattoo, scar tissue)  5)Bone defect(midcrestal, horizontal, vertical, implant-tooth, implant-implant)  6)Space  7)Occlusion and functionをあげていました。これら分析の結果難症例と判断された場合はたとえすべての治療過程が完璧に行なわれたとしても治療結果には限界があるということを講演の終わりのメッセージとしていました。

David Gerberの講演では審美インプラントの軟組織との界面( Pink White interface)においてリスクを少なくし、侵襲を抑える方法について以下の解説をされました。1)CTG & pontic  2)矯正的挺出  3)submerged root(石川、船登先生のIJPRDの論文紹介がありました!) 4)allograft(+PDGF)J-brock pontic  5) Artificial Gingiva

昼からは矯正とインプラントや歯周治療に関するセッションを聴講しました。 Maurice SalamaはOrthodontics When & How to useを主題とした講演を行いました。講演の前にいつものようにDental XPの宣伝がちゃっかりとはいっていたが、なんとその紹介のビデオコンテンツには船登先生のFT wingが使われていました!講演ではインプラント埋入の前のスペースコントロールとして、またIHBを良好な状態にするための矯正の重要性について症例を通じて解説がありました。さらにカントの改変の症例や埋伏犬歯の症例に対するTAD(ミニスクリュー)の利用についても言及していました。

相変わらずGerberや Salamaの講演はオーディエンスであふれていました。
つぎにKevin Murphyの講演ではPAOOが中心でした。
はじめに動物実験や切片などからPAOOの原理の考察がありました。次に臨床例としてdecrowing 症例や歯周疾患罹患症例に対して、さらにはTADとの併用症例が解説され、切開時の原則などについても述べられました。PAOOは6ヶ月のWindow opportunity の間に移動させねばならないといった欠点はあるものの何ら害のない臨床的に有効な方法であると結んでいました。

最後に登壇したWiseは1)ペリオで歯の位置が変わった症例への対応 2)インプラント埋入のためのスペースマネージメント 3)歯槽骨外傷への対応 4)補綴治療との併用あり/なし での審美的改善について講演されました。多くの症例が披露されましたが、その中で矯正治療によりインプラントが避けられるケースもあるということを何度か繰り返し語っていたことが印象に残りました。時間の関係上3)と4)については述べられませんでした。

12日土曜日は終日セラミックス修復のプログラムを聴講しました。
はじめにRobert WinterのOptimizing Form and Function: Clinical and Technical Perspectivesから始まりました。
Winterは最近Frank Spearらとポストグラデュエートコースを開催しており、その影響が講演にも顕著にでていました。以前と同様にOpacity/translucency の関係が歯の自然感について重要であると述べていましたが、今回はSpearのような講演で、審美評価として前歯切端の位置、歯のプロポーション 、歯肉レベルについて解説がありました。そして複雑な症例においての治療ゴールでは審美性と調和した咬合高径やアンテリアガイダンスの確立といった咬合の付与が重要であると述べ、症例呈示がなされており講演スタイルがかなり包括治療にシフトしていたのがたいへん興味深く感じました。最後にインターディシプリナリーアプローチ、歯の色やプロポーション、咬合が治療を通して重要であることを語っていました。

次いでKenneth MalamentがIntegration of Esthetic Dentistry and Prosthodonticsと題した講演を行いました。講演では特にCeramicsの分野についての考え方は前回(9回学会)の内容に近く、 bi-layer ceramics(コアセラミックとレヤリングセラミックの二層構造のセラミック)は低い弾性率や水分が問題点となることを指摘していました。またジルコニアに対するサンドブラスト処理についても物性低下の観点から注意が必要であると述べていました。新しい知見としてはbi-layerのジルコニアクラウンに比べて単層の二ケイ酸リチウムクラウンの方が強度的に有利(NYUのGuessらの研究、5Dのコースでも紹介しましたよ!)であるとしていました。
午前中の最後にAvishai Sadanが登壇しました。講演の始めにUSC Trojansのビデオを流していて、すっかりUSC歯学部長が板についているようでした。

Comprehensive Esthetic Dentistryと題された講演は  1)From invasion to conservative  2)Adhesive dentistry Update  3)Upcoming Technologiesの三部構成でした。Sadanらの研究のレビューを中心とした講演でしたが特にアドヒージョンのジルコニアセラミックブリッジ(QDT 2009掲載)が彼の最新のコンセプトを良く表していたと思います。二症例呈示されていたZiuniteという粗面にボンディングした1本の支台歯によるポンティックの今後の予後に期待したいと思います。

午後の最初はInaki GamborenaによるMaterials and Methods for Optimal Esthetic Results in Implant Dentistryから講演が始まりました。インプラント修復物に自然感を得るためには1)アバットメントのシェード選択 2)noninvasive surgery  3)Boot Bio-type  4)リスクリューの回数を減らす  5)余剰セメントのコントロールの重要性を解説していました。特に1)ではアバットメント歯頸部付近の蛍光性の付与がポイントであると強調していたのが印象に残りました。

つぎにGalp Gurelが登壇しました。Predictable Anterior Esthetics With Bonded Porcelain Restorations: An Interdisciplinary Approachとの題で、彼の得意とするポーセレンベニアが中心の講演であろうと思っていましたがその部分は多くはなく、前歯部インプラント修復についての講演でした。スマイルして見える口元をⅠ Lip zone, それに隠れた部分のⅡ Soft & Hared tissue, Implant Zone, 口唇の上がって見えている部分のⅢ Visible Zone,そこで見えている修復物のⅣ Restorative Zoneの4ゾーンに分けていました。そこでハイスマイルで大きい硬軟組織の欠損の症例を例に彼のコンセプトを解説していました。この様な場合やはりTeam AtlantaらのようにPink restoration による修復が行なわれていました。作ったのは誰かと思ったらやっぱりChristian Coachmanでした。QDT2010でGurelの症例を見ることができます。

最後にMarkus BlatzによるThe All-Ceramic Update in Esthetic Dentistryと題した講演がありました。Silica-based ceramic やHigh strength ceramicの解説があり、その後ジルコニアのインプラント修復物経の応用についての講義がありました。特にHigh strength ceramicではベニアポーセレンの破折についてModulus of Elasticity ,Coefficient of thermal expansion, Residual thermal stresses, Frame work designの問題点を指摘していました。そしてその対応の一つとしてfull contourのジルコニアクラウンが紹介されていました。

最終日はAdvances in Periodontal Plastic Surgery to Enhance Restorative Resultsのセッションを終日聴講しました。
Hom-Lay WangのDecision tree for predictable Soft Tissue Coverage and Augmentation の講演から始まりました。彼は軟組織対処に対して目的別に1)Increasing Keratinized attachment  2)increasing tissue thickness  3)root coverageの3つに大別しさらに3)をMiller class 1 2とclass 3 4に分け樹形図により治療法(APF,FGG,CAF,CTG,GTR,ADMなど)をレビューし整理していました。講演の中でAlloDerm と歯冠側移動術の併用時、根面上にAlloDermを設置するときに歯間部はAlloDermを少しトリミングしていたのが印象に残りました。

次いでLaureen Langer によるImmediate Implant Placement in Severely Compromised Sitesと題した講演が行われました。彼女の1989~2008までの851本のエステティックゾーンでの抜歯後即時埋入について多くの症例(ちょっと単調な症例呈示の感じでしたが)を挙げながらの解説で、厳密で高度な技術により成功することができると述べていました。現在の手法は埋入時にFDBA填入とCTGを併用しているようです。

AlloDermでおなじみのPat Allenの演題はAdvances in Allograft Root Coverrageで、やっぱりAlloDermに始終した講演でした。RCT, systematic review, meta analysisいずれにおいてもAlloDermはCTGと同程度の治療結果が得られるとのべて、microsurgical instrumentを使用したミニマルな切開や、縫合について細かく解説していました。トンネリング形成し,移植時にPRPを使うと大きく結果が良いと述べていました。

午前の最後はMichael McGuireのTissue Engineered Solutions for Esthetic Dillemmasと題した最近の各種組織再生法について講演を行いました。それらについて1)Biologically based devices, 2)Bioactive molecule-based devices,  3)Live cell based devicesの3つに分類し解説がありました。1)については、Xenogeneric collagen matrix(Mucograft)は上顎に置いてはCTGと比してほぼ遜色のない結果が得られているようで有望な材料のように感じました。2)は5-D studyでも紹介されたGEM21sとColla tapeによる根面被覆に言及していました。ただ彼の症例ではβ-TCPを使用していました。3)については培養されたfibroblastをブラックトライアングルに対し歯間乳頭に3回注射して歯間乳頭再建を狙った症例を呈示していました。拝見した感じではそんなにドラスティックに変わる様なものではなく割と地味な変化で、少し残念でした。

午後一番目は宮本泰和先生のTissue Stability of Soft and Hard Tissues Around Implants in the Esthetic Zonesについて講演されました。まず小濵先生との共同研究(PRD 掲載予定)によるCT画像の研究が紹介されました。インプラントの唇側歯頸部付近に2mmの骨が存在すれば退縮は最小限に抑えられること、また軟組織はThin biotypeでは退縮が多いことからインプラント周囲組織はメーナードの分類を応用し、硬軟組織のアップグレードをはかるようにすることを提案されていました。これをふまえて,immediate, early, delayed implant placement各場合についてアルゴリズムを示しそれに沿った症例呈示がなされました。途中ジョークもあり、1回笑わせてもらいました。

次いでPeter Nordland によるMicrosurgical Technique for Augmentations of the Interdental Papillaと題した講演が行われました。以前にPRDに掲載されていた内容を中心に、歯間乳頭にトンネル法を応用したCTGを行ない、2週間ほどサスペンサリースーチャーを行なって歯間乳頭を再建する方法が解説されました。

最後はGiovanni ZucchelliのAdvances in the Treatment of Gingival Recessionと題した講演がありました。たいへん情熱的でイタリアなまりの公演でした。彼は側方や歯冠側に歯肉弁移動をうまく行なっていました。フラップの扱いも繊細なように感じました。複数歯に対しCTGなしに歯肉弁移動で根面被覆を行なった数年前にJ of Perioに掲載されていた症例など多くの症例呈示がありました。個人的には組織安定のためには歯肉の厚みを確保する目的でCTGも併用したらいいのにと思いましたが、いずれにせよ非常にきれいな外科写真で典型的なイタリアのペリオサージェリーだと思いました。

商品展示のブースではBIOMET 3iのコーナーが会場入り口で目立っていて印象的でした。今回のテーマはDigital Dentistryで、特にLAVA COSやCerec ACなどとEncodeがコラボレーションしていたのが印象的でした。これらシステムにより、口腔内のヒーリングアバットメントの光学印象のみでカスタムアバットメント作製が行なえ、非常に将来性のあるコンセプトだと思いました。
4泊6日の強行スケジュールでしたが、現地で5-Dのアドバイザーでもある諸井先生、ボストンでご開業の蒲池夫妻、著名な技工士の吉田明彦氏と奥様、ヒロ徳富氏らともお話しできたり食事させていただいたりしてとても充実した時を過ごせました。