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5-D Japan 2009EAO研修ツアー 報告記 野々山浩介

5-D Japanの記念すべき第一回海外研修ツアーであるモナコのEAO、バルセロナ研修ツアーが行われました。
2009年9月29日 大阪の某先生は朝7時に起きてしまう、という大トラブルがあったにもかかわらず、朝10時成田集合の時間に間に合う、という奇跡からこのツアーは始まりました。

一行を乗せたエールフランス機はパリを経由。

ニースからモナコに入りました。

モナコ公国はバチカン市国と同様、独立国家ですがフランスからの出入りは西のニース側からも東のマントン側からも完全に自由です。ヨーロッパのみならず世界のお金持ちの集まる高級リゾート地で、またモンテカルログランプリレースでも有名です。

モナコでの宿泊は、Hotel Metropoleという非常に高級なホテルでした。めったにお目にかかれないような高級な車ばかりずらりと並んでいるのにはびっくりでした。

到着翌日の午後からvertical ridge augmentation、抜歯窩のマネジメント、サイナスリフト、無歯顎に対してfixで行くかoverdentureで行くか、といった内容等4つのpre-congress courseが始まりました。

この日の晩は参加メンバー全員で宿泊ホテルに入っているかの有名な高級レストランJoel Robuchonで食事をしました。大変美味しゅうございました。

2日目午前はイタリアのTestori等のimmediate loading, sinus elevation, intraoral bonegrafts, orthoなどに対しての10 years of experience in というセッションから始まりました。やはりヨーロッパはインプラントの歴史もあるためか、予後の検証が行われ活発な意見交換がなされていました。午後はロマリンダのJoseph Kan、イギリスのNorton等のimmediate implant-placement in fresh extraction sockets : state of art という抜歯即時埋入に関するセッションがありました。やはりKanの知名度は高く、CT(近遠心面観からの画像診断)からの抜歯即時埋入の新しい分類や、結合組織移植の有効性を述べていました。一方、骨頂部をいかに維持するかで、各種のインプラントメーカーの比較を検証していましたが、アストラ・ンーベル(アクテイヴ)の成績はよかったですが、我が3iは分が悪かったと報告していました。

3日目午前のplenary session2はmanagement of complicationsと題して、イスラエルのZvi Artzi,フランスのFranck Renouard等によるサイナスリフトでの動脈、隔壁、炎症トラブル、ペリインプランタイティスへの対処、上部構造のトラブルへの対応等の関するセッションがあり、
sinus floor elevation (sinus lift) においては術中、術後に多くのケースにおいて難しい問題を抱えることになる、まず、解剖学的問題として、側壁の骨の厚み、粘膜の薄さ、近遠心方向及び頬舌方向への隔壁の存在は特に難症例となる、といった解説から入り、シュナイダー膜(余談だが某先生が以前日本国内の講演会で、ヨーロッパではシュナイダー膜という名称は皆知らない、と話されていたように記憶するが、このセッションでは”Schneiderian membrane”という表現が使われていた)が破れた場合の対処法に関して石川先生と同様の処置法を説明していた。他にsinus lift後に十分な骨量が得られなかった場合、十分な骨質が得られなかった場合、術後感染した場合、window部分に動脈が走行していた場合などの対処法、ペリインプランタイティスへの対処法、インプラント体の長さ7㎜以上、直径4㎜以上のものが有意に予後が良い、という点から術後のトラブルを避けるためにもできればそのようなサイズのインプラント体を選択したほうが良いとの示唆もあり、上部構造、補綴物、スクリュー、インプラント体の破折などのriskをできるだけ減らすための留意点、といった内容もありました。
他にimplantology and medicine , short oral communication1 のセッションも開かれました。
午後からフランスのGardella等によるmethods and timing for soft tissue management and provisional restorationsという船登・石川が提唱するような4Dコンセプトと同様のタイミングに焦点を当てたセッションがありました。同様のことを世界の人たちも考えているんだなあ、と来年の出版の反響が楽しみです。
他の会場ではclinical research competition, short oral communications2 のセッションも開かれ、スエーデンのAlbouyは犬の実験でインプラント体の表面性状の違いによってインプランタイティスの進行に差が出ないかどうかを調べていました。結果はTiUniteが他と比較してプラークも付きやすくインプランタイティスによる骨欠損量も多い、というノーベルユーザーにはショッキングな内容であったため、質疑応答では質問が殺到し、なぜこのような結果になったか理由は何かの質問に対して、推測の域は出ないが表面がポーラスな構造になっているのが原因ではないか、との答えでした。しかし、これはあくまでも動物での実験結果であり、ヒトに関する長期的な報告では、TiUniteは問題なく経過している報告あり、さらなる検証が必要であると思われます。

最終日4日目午前Myron Nevinsなどによるgrowth factorsに関するセッションとbasic research competitionがありました。午後最後のplenary sessionでは、periodontology and implantology : where is the borderと題してイタリアのRicciが術前症例を提示し、2名のペリオ専門医と2名のインプラント専門医計4名の先生が壇上に座り、座長から「この右上の5番をあなただったら抜くのか、切除療法をするのか再生療法をするのか」といった質問や、「分岐部病変も近遠心の場合どうするのか、どこにborderを置いているのか」、といった質問が出され4名の先生が答え、会場からの質問にもSMS(携帯電話のメールで質問するシステム)で随時対応するというとても面白い形で行われました。

結論が出されたわけではなかったですが、全体的な総括的な考えとしては、分岐部病変をroot sectionで残した場合、caries、ペリオの再発、歯根破折等のトラブルも起きやすく、ペリオの再発がおきた場合失われた骨の損失はのちの処置に大きなマイナスになるといった理由から17年前と比較すると抜いてインプラント、というケースは増えているが世界的な潮流がそちらに偏り過ぎてきていることに対する大きな懸念が示されました。
4日間を通じての印象として、やはりヨーロッパはインプラント発祥の地であるため10年、20年といった長期症例をより多く見ることができたことは大きな収穫でした。そしてやはり長期症例が多い分、インプランタイティスも日本より、研究分野でも臨床分野でもより切実な問題としてかなり大きく取り扱われていました。そしてそのインプランタイティスを防ぐためにもやはり角化歯肉が有効である、といった発表も見られました。今後インプランタイティスもインプラント治療学の大きなトピックになっていくであろうと思われました。
  アメリカの学会で言うとAOよりもかなりAAPに近い、つまりペリオにより軸足を置いているような印象も持ちました。やはりアメリカの学会だけではなくヨーロッパの学会にも時々参加することはとても有用であるように思いました。今後も5-D Japanが主催する海外研修に是非毎年参加したいと思います。