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5-D Japan REPORT AO 2010 – Academy of Osseointegration 25th Annual Meeting

THE FORMULA FOR PREDICTABLE IMPLANT SUCCESS

鈴木 健造
東京都開業:健造デンタルクリニック

はじめに

 2010年3月4日(木) 6日(土)までの3日間にわたり、米国・フロリダ州オーランドのWalt Diseny World Dolphin Resort (写真1)において、Academy of Osseointegration(以下AOと略) 25th Annual Meeting が世界中から2200名(学生372名)を超える参加者のもと熱く盛大に開催された。遥か彼方のフロリダということもあってか日本からの参加者は100名であった(写真2,3)。
筆者は15年程前の3月にフロリダ州マイアミ及びオーランド(オランドーが発音としては正しい)を訪れた事があり、確か海で泳げる程の通年温暖な気候と記憶しているが、今年は例年になく寒いと言われるだけあり、総会期間中は会場内とは相反し連日肌寒く感じた。

写真1 : 会場となった Walt Diseny World Dolphin & Swan Resort

写真2 : 左より北島先生、筆者、石川先生、船登先生、寺西先生、櫻田先生、三浦先生、中川先生

写真3:日本から参加された先生方と打ち上げ!

第1日目

 午前8時より8つの会場に分かれて、大手インプラント及び周辺機器メーカー、計13社により45分単位でCorporate Forumが開催された。
Nobel Biocare社の会場ではJoseph Y.Kan,DDS,MSが最初に登壇された(写真4)。この中でDr Kanはインプラント周囲への乳頭様組織の維持または再建ではソケットプリザベーションと抜歯即時埋入を比較し、抜歯即時埋入・プロビジョナライゼーションに審美的な理があると経年症例を通し述べられた。しかし同時に2010年6月にJPRDから発刊予定の自身の論文から”Classification of sagital root position of maxillary anterior teeth for immediate implant placement”などを引用され、抜歯即時埋入の審美的経年変化の失敗症例が散見されていることから、重要な事はインプラント形状よりもインプラントダイアメーターや埋入位置の選択基準であり、また経時的変化のためのグラフトの必要性や、グラフトをしたとしてもその経時的変化を予測することは困難であることから審美領域での抜歯即時埋入や抜歯即時埋入即時荷重では慎重に症例を選択することが鍵であり、それらをふまえても複雑且つとてもチャレンジングな治療であると警鐘を鳴らされた。

写真4 : Nobel Biocare社の会場、Dr Kan Jの講演風景
Osteohealth社の会場ではJaime L.Lozada,DMDとDaniel Buser,DDS,DMDが登壇された。
  Dr Lozadaは垂直的骨造成に置けるDBBMグラフト材Bio-Ossの優位性を過去に同内容で発刊された様々な文献を引用し説明された。
  Dr Buserは自身の過去論文を引用し審美領域での抜歯後早期埋入・タイミングの検証と、GBRの有効性を述べられた。
その中で、今現在多くの骨補填材が存在するが自家骨がゴールデンスタンダ
ードに変わりないと前置した上で、新しい骨構成のために埋入時露出したフィクスチャー面には自家骨を置き、その外側やカントゥアーを成す部位や、またBiotypeがthinな場合はソーサライゼーションにより歯肉のリセッションが生じるために、それに耐えうる唇側骨の厚みの回復と維持のためのDBBMに代表されるHA系統の補填材が長期的に有効である事と、プラットフォーム・スイッチング構造を持つインプラント体の選択が望ましい事を述べられた。また適切な科学的証拠のない補填材は絶対に使用するなと強調された。

 1時間の昼食を挟み、Opening symposiumである“A Quarter Century of Experience – The Formula for Predictable Implant Success in the Esthetic Zone”がメイン会場(写真5)で開催され、審美領域における治療計画、ガイデッド・サージェリー、インプラント埋入とプロビジョナライゼーションのタイミング、最終補綴完了までのリスク評価をトピックとし、Alan L,Rosenfeld,DDS、Dennis P.Tarnow,DDS、Clark?? M.Stanford,DDS,PhD、William C.Martin,DDS,MS、Konrad H.Meyenberg,MD,DDS等7名が25分単位で登壇された。この中の2名のSummaryを以下に記す。
  Dr Roseは” Risk Evaluation Factors Associated with Systemic Disorders”と題し、インプラント治療と心筋梗塞、卒中、糖尿病、骨粗鬆症、HIV、精神疾患などとの関わりを述べられ、それらを有するインプラント治療希望患者にはより厳格な診断と治療計画を個別に作製し、マネージメントとリスクを加味した上でインプラント治療を提案する必要があると力説された。
  Dr Grunderは”Risk Evaluation: Local Assessment in the Esthetic Zone”と題し、審美領域にインプラントを用いる場合のリスク評価として、smile-line, shape of the ridge, tooth form, neighboring teeth, soft tissue, bone defect, space and functionを挙げ、多くの単独及び多数歯欠損症例を元に治療の各段階の困難さと同様に生物学的限界と、術者各々の技術的限界を理解し、症例を選ばなければならないと述べられた。

写真5 : 満席のメイン会場
セッション最後にはNobel Biocare Branemark Osseointegration Awardとして、George A.Zarb,BchD,DDS,MS,Recipientがその功績を讃えられ表彰された(写真6)。

写真6:Nobel Biocare Branemark Osseointegration Awardを受賞された
Dr Zarb G.A

  またこの後、午後5時より249演題のポスターセッションが開催され、日本からも数名がプレゼンテーションされた。このセッションは金曜日まで続けられた。

第2日目

 早朝7時よりPatrick Palacci,DDSやSascha A.Jovanovic,DDS,MS等12名による30名限定のRound Table Clinicsが、また、8時30分よりOral Scientific & Clinical Researchが開催された。
この後、午前9時から10時30分と11時から12時30分の2回ずつ、有料セッションであるLimited Attendance LecturesがMyron Nevins,DDS等18名の先生方により12会場で開催された。筆者はDr Nevins M等のOsteogenic Procedures with rh-PDGFのレクチャーに参加した。この中でDr Nevinsは歯周組織再生療法に用いられているrh-PDGFの優位性に触れ、更にはサイナスへのオーギュメンテーション、水平・垂直的リッジオーギュメンテーション、抜歯窩の保全をトピックスに、垂直的GBRにBio-Ossブロックと rh-PDGFを混合した移植材を用いたメンブレンを使用しない方法で、そのOsteoinductive(骨誘導能)の優位性が発揮出来る事を自身が関わった過去論文を含めて示された。

午後からはTreatment Approachesがメイン会場で開催され、Peter K.Moy,DMDやStephen J.Chu,DMD,MSD等8名が25分単位で登壇された。内容としては今までのアグレッシブな傾向よりも、治療の限界やその限界を理解した上でより良い結果を導く為の手技や長期的な科学的根拠のあるマテリアル選択などに終始した。またDr.Maurice SalamaはRoot submergence techniqueの手技について触れ、中切歯・側切歯欠損で中切歯にインプラント埋入を行い、側切歯にこのテクニックを用い、審美的解決を図った症例を提示し、我が5―D Japanの石川・船登の名前を連呼していただいたことは、何よりも誇らしかった。(写真7)

写真7:左から船登先生、 Treatment Approachesに登壇されたDr Salama M、筆者、石川先生

 また同時刻に別会場に於いてClinical Innovationsが開催され、10分単位で多くの先生方がプレゼンされた。

セッションが全て終了した後、PARTYまで時間があったので、ツイン+エクストラベッド(“気ぃ使いぃの”船登先生のベッド、「ええから、お前等そっちで寝ろやぁ!」)で泊まられているファウンダー3先生の部屋に恐る恐るお邪魔した。5-Dアドバイザーの諸井先生も合流され、“いいちこ”と“薫製たくあん”で「カンパ?イ!やっぱこれやね!?」で昔話に花が咲いていた(写真8)。

また、この後、船登先生、石川先生、北島先生、諸井先生はDr Salama H&M、Dr Garber等TEAM ATRANTAとスペインのBORG TEAMの先生方と夕食を共にされた。

この日の夕刻、ウォールト・ディズニー・ワールド内Epcot Centerに於いてPresidents Reception Partyが開催され、大勢の参加者で賑わった

写真9 : プレジデント・レセプション・パーティーが開催されたEpucot centaer
付近で「本当に学会行ってきたんだからぁ!?」の証拠写真撮影。

第3日目

最終日午前8時よりClinical Track Programが開催されMassimo Simion,MD,DDSやPatric Palacci,DDS等15名によるClinical Track Progam(Surgical & Restorative)が開催された。
Surgical Trackでは1. Socket Preservation / Immediate Placement 2.Autogenous Bone Graft 3.Ridge Expansion(MI)4.PDGF+GBR? 5.BMP-Ⅱ 6. Tissue Engineering7. SECTG 8. Papillae Regenerationの順にその道のスペシャリストが登壇した。

 この中で、Dr Michael K,McGuire,DDSがliving human fibroblast-derived dermal substitute (HF-DDS)と称される生体由来線維芽細胞生成上皮組織を使った歯牙及びインプラント周囲への角化歯肉獲得について述べられた。まず付着歯肉の必要性を説明し、HF-DDSとFGGを比較。HF-DDSは組織再生(Regeneration)であるがFGGは瘢痕(Scar:Graft Island)であり、ScarよりRegenerationの方が明らかに治癒のQualityが高いと力説された後、HF-DDSを用い既存の角化歯肉とのブレンドされた症例を提示された。FGG後の瘢痕治癒が望ましくない審美領域への応用に期待を抱いた。

 午後2時より本大会のClosing Symposium”Unexpcted Complications-Complications and Solutions”がメイン会場で開催され、超満員の参加者で埋め尽くされた。Nicolas Elian,DDS、DonaldS.Clem,DDS、Bobby L.Butler,DDS等7名がHard Tissue、Soft Tissue、Restorative、Estheticなど様々な合併症へのリカバリー処置を提示した。学会では数年来合併症への問題提議をしてきているが、インプラント治療に関わらず医療行為にはある一定の合併症が実在する。100%はありえないが、基本的事項である診査診断から患者固有の生体的特徴を考慮した科学的根拠のある治療計画を立案し、生じ得るリスクを予測する事が重要であり、また術者自身の技量を過信せず認識し、単純なテクニカルエラーだけは避ける事で合併症の確率を減らす事は可能であるという学会からのメッセージを受け取った気がする。

おわりに

 総会期間中に光栄にも会の運営を担うコミッティー・ミーティングに参加させて頂く機会を得た(写真10)。その将来性をよりグローバル化させる為には学会として何を充足するべきか、あらゆる国のコミッティー・メンバー等がこの事を模索している事に多いに共感を得た。その1つとして欧米で開催される学会への参加だが、旅費やRegistration Fee以外に有料セッションなど費用面からしても、決して容易には参加出来ない。アジアの新興国からもっと参加出来るようコスト軽減の要望が多くあると聞いた。AOはそういった根本的な課題についても、参加者からの要望と学会の権威、その均衡を保ち、相互利益への追求を怠らない姿勢を強く感じ、今後インプラントマーケットが拡大するアジア圏への学会の影響力が益々強くなると思われた。また、日本からの参加者を更に多く募るためには何が必要かも学会側から我々に提議された。

写真10 : コミッティー・メンバーと話し合う5-Dファウンダーの先生方

写真11 : おまけ、Vサインでなく“福西先生,南先生がいなくて寂しい?”のサイン。上の5Dスターデンタルクリニックに注目!
25周年を回顧し現AO PresidentであるVincent J.Iacono,DMDは言う、
「会発足25年、我々は患者への最良の結果をもたらすため新しい発見を共有してきたが、今後も更に探求し続けなければならない」と。
  来年の26th Annual Meetingは”Back to the Future:次の25年のための新技術と原理原則の融合”をテーマに、2011年3月3日?5日までワシントン,D.C.で開催される。